「犬との絆」が資産家老女殺人の犯人捜しの鍵=佐藤青南「犬を盗む」

資産家の老女が殺された高級住宅街にある自宅には、かつて彼女が飼っていた犬の痕跡が遺されていたため、捜査員たちはその犬の行方を捜すのですがどこにも見当たりません。現場には、誰かに茶をふるまった跡と、被害者の中が抜かれた財布が落ちていたので、顔見知りの金目当ての犯行かと思われるのですが、そこで捜査は行き詰まります。「犬」は本当にいたのか、いたとすれば犯人が連れ去った理由は何なのか、「犬との絆」が謎を複雑化していく愛犬ミステリーが本書『佐藤青南「犬を盗む」(実業之日本社)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一章 犬を飼う
第二章 犬を抱く
第三章 犬を探す
第四章 犬を攫う
第五章 犬を救う
エピローグ

となっていて、事件のほうは、東京都世田谷区の高級住宅街の一角にある大きな日本家屋内で一人の老女が殺されているのを、配食サービスの配達員がみつけるところから始まります。被害者はこの周辺に土地とアパートを複数もつ古くからの地主で資産家で、屋内にはクローゼットをひっくりかえしたり、被害者のものと思われる空の財布が落ちていたため、金目当ての犯行が有力で、さらに、誰かに茶を出した痕跡も残っていたため、顔見知りの犯行の線で警察は捜査を進めることとなります。

家の中には犬のペットゲートやドッグフードもあって、被害者は犬を飼っていたろうと推測されるのですが犬の姿はなく、それでも、犬アレルギーの刑事・植村は部屋に入った途端、くしゃみの発作に襲われるといった筋立てになっています。

これと並行して、近くのコンビニの夜の店の様子に場面が転じて、そこに勤務している「松本」という店員が同僚で新人の店員・鶴崎にアパート住まいなのだが「犬を飼い始めた」と打ち明けるエピソードが挿話されていて、あー、これは事件となんか関係しているな、とにおわせています。

で、鶴崎は妙に「松本」と仲良くなりたがっていて、彼のアパートへやってきては、松本が飼い始めた白いチワワ「シロ」の散歩や面倒を見始めるのでですが、実は鶴崎はある魂胆をもって松本に接近してきているので注意しておきましょう。

で、事件捜査のほうは、被害者がかなりの人嫌いで近所づきあいもなく、親戚や子供たちからも、その性格のキツさと口の悪さで敬遠されていたためなかなか進展をしなかったのですが、「犬つながり」で近くのドッグランに聞き込みに行ったところ、1年前まではよく来ていたが、他の利用者とケンカしてその後は姿をみかけなくなったことがわかります。そして、被害者の自宅の庭から白骨化した犬の死骸が発見され、この家に最近まで犬がいたのか疑わしい事態にも。ただ、そうなると刑事の植村のアレルギー反応は何だったのか、といったことになるわけですね。

また、聞き込みを続ける中で、ミステリー作家をしている愛犬家の女性が、夜中に「白いチワワ」を散歩させている被害者の姿を最近まで見ていた、という証言がでて、若干捜査が混乱してきます。

そして、この後、そのミステリー作家の女性が、コンビニ店員の「松本」が、16年前に、成績のトラブルで両親と飼い犬を金属バット撲殺した犯人・周防であることをつきとめ、この資産家女性の殺人と犬の拉致の真犯人ではないかと疑い、ネット掲示板にアップするなど暴走していくことになります。

彼女は、松本が真犯人と決めつけ、彼の同僚の鶴崎を使って、彼の情報を集めてはネットに流し始めます。「松本(周防)」が犯人だとするネット論調は激しくなる一方なのですが、実は真相は別のところにあって・・ということで、最後のほうでは、松本(周防)の16年前の愛犬殺しの真相も明らかになるのですが、詳細は原書のほうで。

レビュアーの一言

ペットフード協会が毎年調べて発表している報告書によると2022年のペット飼育頭数は犬が705万頭、猫が883万頭、あわせて1589万頭だそうです。頭数や飼育率は横ばいだそうですが、若年層、特に20代から30代の子供のいない女性層の新規飼育意向が減少しているそうです。

新規飼育者は犬は約3万頭増加しているに対し、猫が5万7千頭減少しているので、犬と猫の人気度に何か変化が起きているのか、あるいは新型コロナによる巣ごもり需要の減少も影響しているのかもしれませんね。

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