母校のブラスバンド部に封印されていた「過去」が殺人を呼び起こす=佐藤青南「残奏」

過去に音楽コンクールの声楽部門で優勝し、プロの音楽家になる才能を見込まれながら、オーケストラではなく警察音楽隊に採用されたにもかかわらず、その観察力の鋭さで刑事部門から脱出できない、女性音楽家警官「鳴海桜子」の活躍を描く、警察ミステリーの第3弾が本書『佐藤青南「残奏」(中公文庫)』です。

第一弾では、新進の作曲家の時を超えた復讐劇を、第二弾ではメンバーの信頼の厚いコンマス奏者殺害事件の陰の性向を暴いた「音楽家警察官」鳴海桜子だったのですが、今回は、人気のロックバンドメンバーの殺害事件に隠された過去の事件の謎に迫ります。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグー二十年前
第一章
インタールードー二十年前
第二章
インタールードー二十年前
第三章
インタールードー二十年前
第四章
エピローグ

となっていて、物語の本編と並行して、謎解きをリードするかのように、二十年前のある学校の吹奏楽の指導教師の息子の自殺事件が描かれていきますので、この「プロローグ」「インタルード」で垣間見える謎ときのヒントを見逃さないようにしておきましょう。

本編の事件のほうは、東京でロックバンドでトランペットを吹いている「古溝」という男性がマネージャーから、雑誌インタビューの場所変更の電話を深夜にうけるところから始まります。そのバンドはそこそこ人気があるようなのですが、ヴォーカル人気に負っているらしく、腹立たしいものの承知し、自宅近くの月極駐車場に車を入れたところで、見ず知らずの男に同行を求められ、その後、自宅近くの八階建てのマンションの屋上から転落しているのが発見された、というものです。

通常なら事故か自殺として処理される類のものなのですが、爪に何かの繊維片が挟まっていたため、何者かに突き落とされたのではと他殺の腺からも捜査が始まり、ここに応援要員として動員されてきたのが、本シリーズの主人公である捜査一課の音喜多と玉堤署刑事課の音楽家刑事の「鳴海桜子」というわけですね。

捜査本部のほうは、「ロックバンド」ということで麻薬がらみの線で捜査を始めるのですが、鳴海はそんな方向には目もむれず、被害者の自宅へ聞き込みにでかけます。裕福に夫婦仲の良かった様子なのですが、鳴海はその「自宅」に楽器がなかったことや古溝が自宅近くの「契約していない」月極駐車場の車をいれていたことから、古溝夫婦の関係が破綻していて、警察には仲の良い夫婦を演じていたことをあっという間に明らかにします。

夫婦関係が破綻していることから何時「自宅」を帰ってくるかわからない被害者も捕捉して殺害するにには近くに「拠点」をもっていたはずと推理し、近くのウィークリーマンションを他人名義で借りていた「宮城」という容疑者を見つけ出します。その宮城という容疑者はすでに行方をくらましていたのですが、彼の自宅から、被害者のインタビュー記事の載った「ブラスバンド」専門誌を見つけ・・という筋立てです。

そして、この宮城と被害者がともに北海道苫小牧市の出身で、北海道見山高校卒業、さらには重なってはいないものの、二人ともブラスバンド部の出身であることをつきとめ、北海道へと捜査の範囲を広げていくのですが・・という展開です。

ただ、現地に行って捜査を進めるのですが、宮城の在校時に全国大会出場したものの、当時の指導教員が元気だったときは部活も活発だったのですが、その教員が胃がんで死去してからは鳴かず飛ばず、ということがわかったぐらいで、宮城と古溝のつながりや事件の背景になりそうなものはなかなかでてきません。

鳴海と音喜多はそれでも、学校を始め当時の同級生などの関係者への聞き込みを続けていくのですが、そのうち、当時の指導教員の息子が全国大会出場時に自殺していることを知り、現在はゲイバーに勤めているその息子の同級生に会いに行くのですが、そこで意外な事実が判明し・・という展開です。

少しネタバレしておくと、最近ミステリーで流行しているLGBTQネタではありますね。

レビュアーの一言

音楽隊志望で警察官になったものの、なかなか音楽隊配属とならない「鳴海桜子」なのですが、今巻では前巻の最後半でほのめかされていたように、音楽隊からオファーはきているものの彼女が異動を断っている、というのが事実であることが明らかになります。

さらには、今巻の事件の捜査がきっかけで、鳴海の「異母妹」の存在も明らかになり、、次巻以降はこの血縁関係もなにやら不穏な気配を漂わせています。

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