浅井の遺臣・与一郎は越前国崩壊と長島の殲滅戦を目撃する=井原忠政「長島忠義 北近江合戦心得二」

織田信長に攻め滅ぼされた近江の戦国大名・浅井長政の家臣で弓の名人であった主人公・遠藤与一郎が、主家の滅亡後、信長の家臣・豊臣秀吉の足軽となり、浅井家再興のために、心ならずも信長の天下統一に力を貸していく、お家再興物語「北近江合戦心得」シリーズの第2弾が本書『井原忠政「長島忠義 北近江合戦心得二」(小学館文庫)』です。

前巻では、小谷城落城の際に、主君・浅井長政から託された遺児・万福丸を守って敦賀に落ち延びたものの、信長の奸計にひっかかって万福丸は刑死。浅井家再興の望みが絶えたと思われたところ、信長の妹・於市の計らいでもう一人の遺児を匿ってもらうかわりに、豊臣家の家臣として仕えることとなった遠藤与一郎改め「大石与一郎」が、今回は朝倉家滅亡後の越前の騒乱や信長最初の殲滅戦となった「長島の戦」に従軍します。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章 岐阜城の月ー臥薪嘗胆
第一章 浅井旧臣百景
第二章 越前騒乱ー冨田の一ヶ月天下
第三章 根切り戦ー燃える輪中
第四章 前門の秀吉、後門の於弦

となっていて、冒頭は前巻で浅井長政の第二子・万寿丸を匿ってもらうかわりに秀吉の家臣となることを承知した「遠藤与一郎」改め「大石与一郎」は、岐阜城下の織田家の足軽長屋から始まります。

浅井家に仕えていた頃は北近江の国衆出身の浅井家の重臣で、弓と馬の名手として知られていた与一郎なのですが、三か月前にさらし首となっていた浅井家の嫡男。万福丸の首級を盗み出し、二カ月前に万福丸の首を刎ねた織田家の足軽大将を謀殺していて、主君・信長にそのことを知られるのを恐れた秀吉によって、放逐されないまでも足軽の身分のまま留め置かれているという状況です。

まあ、北近江を信長から領地として与えられた秀吉にとっては、遺児の首を取り返し、仇を討ったことで旧浅井の家臣たちから感謝されている与一郎を罪人として捕縛するわけにもいかず、信長の手前厚遇もできず、と苦肉の策であるようです。このおかげで旧浅井家の家臣は急な立身出世のために家臣不足に陥っている秀吉の家中に大量に雇用されることになるのですから、良しとしておきましょうか。

このせいもあってか、与一郎は後に秀吉の側近となる石田三成、この時は石田佐吉よ知り合いになるのですが、これが吉とでるか凶とでるかがまだ先のことですね。

ただ、秀吉のほうは、武術に優れ胆力もある与一郎を棚ざらしにして無駄飯を食わせておくつもりはないらしく、織田との間で雲行きが怪しくなりはじめた「越前」での隠密働きを命じます。というのも、織田勢が越前の戦国大名・朝倉義景を滅ぼした後、朝倉攻めで信長に内応した桂田長俊を越前守護代にして治めさせていたのですが、朝倉の旧臣たちからの評判が最悪で、場合によっては越前国全体が四分五裂しかねないという状況になっているのですが、秀吉家中にはこの情勢把握をさぐる適当な家臣がおらず、元乳母が敦賀にいる与一郎が隠密の一人として目をつけられた、という次第ですね。

与一郎は、従僕の元山賊の弁造とともに、元乳母が嫁いでいる敦賀の木村家を頼って越前いりするのですが、それは、万福丸と一緒に潜伏している時に、恋仲になって将来を誓った木村家の娘で毒矢の:名手の「於弦」と再会することを意味していて・・という筋立てです。

与一郎は、越前府中の北西にある、織田城の城主・織田兵庫助の助力を得て、越前の国衆たちの争いの渦中に飛び込むこむのですが、それは守護代となった桂田が、その圧政から国衆の一人・富田弥六郎に斃され、その冨田自身も、短気で乱暴なことから人望がなく、国衆の離反をまねき、そこへ加賀の一向宗の勢力が入り込み、と朝倉滅亡後、越前が乱れ、まさに国が滅んでいく姿を目の当たりにsることとなります。

さらに、与一郎が、浅井家再興のために越前に残らないことで於弦の怒りを買い・・といった展開です。

後半では武田勝頼が高天神城を傘下に収め、徳川と睨み合っている最中、信長はいままで苦しめられてきた、伊勢・長島の一向一揆鎮圧に乗り出します。12万を擁する大軍へのわずかばかりの加勢として、秀吉が弟・木下長秀とともに派遣した300の軍勢の一人として与一郎も十分しています。長秀は与一郎にトリカブトを塗った毒矢で一揆勢の指揮をとる武者を狙撃させ、相手の士気を削ごうという作戦のようなのですが、これは与一郎の属する「藤堂隊」全体が最前線にでることが義務付けられることになるわけですね。

藤堂隊は九鬼水軍の関船「波切丸」に乗船して、敵の村上水軍と激突し・・という展開です。

いわゆる戦国ものでは珍しい、焙烙玉という手りゅう弾をつかった戦闘や船上でのバトルが展開されていきますので、原書のほうでお楽しみを。

この後、兵力にものをいわせて一揆勢の籠る砦を取り囲み、干ぼしにしたうえで、降伏を受け入れると見せかけて、一向門徒を老若男女を問わず「根切り」にした、織田軍の「殲滅戦」が始まっていきます。

レビュアーの一言

このシリーズの主人公である与一郎は武芸も優れたイケメンであるため、ほとんどの女性から好かれる存在なのですが、ある一定の段階ぞ過ぎると、彼の優柔不断なところが出て、かえって恨みをかってしまう損な性格のようです。

於市の方の侍女・和音の時は、於市の方から和音からの縁談を勧められながら、本人が近くにいるとは気づかずに無下に断ってしま志、才色兼備を誇る自信家の和音にプライドをずたずたにして恨みをかっていますし、敦賀の木村家の跡取り娘・於弦の場合は、かつては一緒になって木村家を継ぐと約束しておきながら、浅井家のお家再興のために反故にしたため、於弦の出奔と加賀一向一揆への参陣という事態を招いています。

ここまでのところでは明確な禍とはなっていないのですが、このシリーズのどこかで彼女たちの手ひどい復讐にあいそうな気がします。

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