声楽家刑事が、皆に慕われるコンマスの闇の姿をつきとめる=佐藤青南「人格者」

過去に音楽コンクールの声楽部門で優勝し、プロの音楽家になる才能を見込まれながら、オーケストラではなく警察音楽隊に採用されたにもかかわらず、その観察力の鋭さで刑事部門から脱出できない、女性音楽家警官「鳴海桜子」の活躍を描く、警察ミステリーの第2弾が本書『佐藤青南「人格者 刑事・鳴海桜子」(中公文庫)』です。

第1弾で、新進の作曲家の企んだ時間を超えた復讐劇を解き明かし、それを阻止した鳴海桜子と音喜多弦だったのですが、今回は、「人格者」としてオーケストラのメンバー誰もから信頼されているコンマスのバイオリニスト殺しの謎に挑みます。

あらすじと注目ポイント

物語は、第1弾の天才作曲家が関係した「深沢一丁目公園」殺人事件から2年後、警視庁捜査一課の刑事・音喜多弦が今度は大泉中央署に設置された捜査本部で鳴海桜子と再会する場面から始まります。第一弾では玉堤署にいた鳴海なのですが、音楽隊への異動希望は実らず、いまだに刑事課に残留しています。今回は応援で捜査本部に加わったのですが、そのKYぶりで騒動を起こすのは変わっていませんね。

で、事件のほうは、練馬区の大泉にある一軒家で火事が発生し、そこから男性の遺体が見つかったというもの。男性は、後頭部を殴打された昏倒し、部屋につけられた火によって発生した煙を吸って絶命したもので、その住居に住み、関東フィルのコンマス「久米充」と推定されます。

室内の被害者の財布や預金通帳は手付かずだったので物盗りの犯行ではないと思われたのですが、事件現場にやってきた鳴海が、鑑識中であるにもかかわらず、残っていたバイオリンを弾き始めるや、ここには被害者が使っていたメインのヴァイオリンが分逸していることをつきとめます。被害者のヴァイオリンはおそらく数百万はする高級品ではあるのですが、現金ではなく楽器を盗んでいった犯人の目的は・・という筋立てです。

被害者の「久米」はオーケストラの他のメンバーの評判も良く面倒見のいい人物で、クラシックの普及のために半ばボランティアで少年少女向けにヴァイオリン教室を開いているという人物で、恨みを受けている気配はないのですが、調べてみると最近行ったオーケストラの団員募集で、久米が自分の愛人を合格させているという嫌がらせの電話が事務局や、オーディションに合格し新規に団員となったヴァイオリニストの「森田杏」にかかってきていたことがわかります。

このため、音喜多と鳴海は、団員募集のオーディションに参加していた森田以外の参加者をしらみつぶしに調べていくのですが、そのうちの一人・狭山泉美のアパートで狭山が「久米」の殺害と同じように殺されて、火を点けられているのを発見します。音喜多と鳴海は、この二つの殺人の陰に、オーケストラの団員を目指してオーディションを受けてくる女性を食い物にしている線で捜査を進めていくのですが・・という展開です。

少しネタバレしておくと、このあたりには、この作者お得意のひっかけが仕込まれているので、ひっかからないようにしましょうね。

そして謎解きのヒントは、被害者が誰からも慕われる、芸術家によくある「女癖の悪さ」の片りんもない「人格者」であることが強調され、捜査開始時に妻と子にはそれぞれアリバイがあった、とわざわざ書いてあったり、久米がアントン・ブルックナーが好きだったというクラシック・ネタにあって、「人格者」の意外な正体と思わいがけない犯人が明らかになっていくのですが、詳細は原書のほうで。

レビュアーの一言

この物語では何人かの作曲家たちの変わったエピソードがでてくるのですが、謎解きのヒントともなる物語の被害者が好きだったという「アントン・ブルックナー」も様々な奇癖の持ち主であったようです。作中にもでてくるように極端な「ロリコン」であったのもそうですが、交響曲を発表しても、世間から批判されたり、受け入れられないとすぐにひっこめて何度何度も書き直した人であったようです。そのため、同じタイトルでも異稿が存在したり、違うバージョンが何個もあったりと、どのバージョンを演奏するかは指揮者の裁量に任されている、演奏家泣かせの作曲家でもあるようです。

さらに松本清張の「数の風景」では、目に触れるすべてのものを数えないではいられない「計数マニア」であったとも話も紹介されているようです。まさに、ミステリー・ネタにふさわしい奇人作曲家といえるかもしれません。

【スポンサードリンク】

【電子書籍比較】「まんが王国」のおすすめポイントを調べてみた
新型コロナウイルスの感染拡大がおきてから、一番利用者が伸びたのは、漫画の電子書籍サイトではないでしょうか。それ以来、電子書籍アプリは、書店系から出版社系まで数多くリリースされているのですが、今回は各種の比較サイトでベスト5にはいる「まんが王

コメント

タイトルとURLをコピーしました